遠征日記 4月26日
<三浦豪太日記>
BCがだんだんと出来上がってきた。
今朝は、トイレ・テントが狭いということでトイレ・テントのリモデルをした。
その後、倉庫に行って食料の箱を全部開けて、藤島さんが動きやすいようにアレンジをして、その後に装備チェックを行った。
午前中、頑張ってたくさん動いたおかげでBCが大変機能的になったとの噂だ。
特に、トイレの改良がとてもよかったとの評判だ
今回はトイレの便座を樽の上に乗っけてみた。
樽にはビニールがはいっていて排泄物をキャッチするシステムになっている
ここBCは衛生管理と環境保護を大切にしているため、全ての排泄物はキチンと持ち帰るのだ。
この樽の上に便座を乗っけるシステムはシンプルながら特許が取れるのではないかと思うほどの自画自賛的アイデア商品だ。なにしろ許容範囲が広い上に漏れがない。
しかし、アイデアがよかったのだが使い勝手がよくなかった
最初に設置したときは、置いた樽の周りを石で囲んだ。しかし設置場所がよくなかったのか樽がぐらぐらした。すると便座はその上に載っているだけなので、便座が樽の上を滑るので、安定した排泄行為が困難になる
もうひとつの問題点はトイレ・テントが前より後ろのほうが広い設計になっていたため、なかなかたつスペースがないうえに、足場の石がぐらぐらすると、とても評判が悪かった。下手したら転んで樽に手を突っ込んでしまうとまで言われた。
この問題を解決するため今朝、毛利さんと一から設計を見直した
樽の固定と安定、足場の強化、そしてテントのスペース設計。
このリモデルのおかげで、非常に快適な空間が広がり、トイレで雑誌まで読めると、評判の高いトイレとなった。
その間、兄と産経さんグループは2mドーム・テントの作り直しをしていた。デスクが設置され、とても快適な仕事空間ができていた。
昨日まで噂になっていた、5月1日から10日までの登山制限が大幅に軽減するかもしれないという話が、ネパール軍のスニールさんからあった
中国から課せられた条件というのはあまりにもエベレスト登山にそぐわないため、条件の見直しをしているという。詳しい話は明日、4時からクライマー、およびシェルパミーティングで話すとのこと。
午後になって、午前中たくさん仕事をしたおかげでかなり時間ができた。
暇な時間をどうしようかということになり、父とBCめぐりをすることにした
正式なネパール軍の発表によると、現在32隊がすでにBC入りをしており、その後、8隊増える予定で、全部で40隊がBCに入る予定だという。
以前聞いた50隊というのはあくまで噂で、正式には40隊だそうだ。
それにしてもスケールが大きい。
その為、BC村の中心にはベーカリーができているという噂を聞きつけ、父と探しにいってきた。
僕たちが行くと意気込んだが、実はそのベーカリー、僕たちのBCのすぐ隣という事実が発覚し、さらに驚く ― いつも見ている後ろの青いテントがそうだったのだ
ベーカリーはECOトレックという会社が運営しており、ヒマラヤの環境について意識を高める目的で設営されているそうだ。
なるほど、中に入ってみると様々なパネルが展示され、50年前と今のヒマラヤの写真が比べられたり、環境に対する取り組みの説明があった。
ベーカリーは、ガスオーブンまで持ち込んでの本格的ベーカリーだった。父はアップルパイ、僕はクロワッサンを頼んでほおばりながらパネルを見て回った。
その後、すぐ隣のベトナム隊に挨拶に行く
ベトナム隊は国が始まって以来のエベレスト登山隊だ。メンバー全員、かなりのハイテンションでナムチェですれ違ったが、ここでもハイテンションで次から次へと父に質問したり話しかけたりした。あまりにも興奮をしていたのか、僕たちにお茶のつもりで出したのがただのお湯だったが、彼らのハイテンションぶり気をとられ、つい一気に飲んでしまった
その後、ベースキャンプ・エリアにいる警察を仕切っているナワ・ヨンデンさんのテントにお邪魔する。ナワ・ヨンデンさんは今回の元凶はネパール軍だという。
ネパール軍が取り仕切っているおかげで、中国の言いなりになってるとまで言っていた。
どうやらネパール警察とネパール軍はあまり仲がよくないようだ
ナワ・ヨンデンさんのところで話しを聞いた後、メディカル・センターがあるというのでいってみたが、誰もいなかったので、自宅(BC)に戻ることにした。
夜、イタリアのマルコのキャンプへ招待された。
父、兄、僕の3人でいった。
彼らは本物の登山家である。
14座を無酸素で登り、いまだに登山を続けている
彼らとの最初の出会いは2年前のシシャパンマだった。あのとき、父のファンだといって、生ハムを持ってきてくれた。
今回も過ぎたる接待をこのヒマラヤ山中で受けた
おいしくアルデンテに仕上がったパスタに、野菜スープ、彼らの田舎から持ってきたというチーズとアーティチョークハートの漬物、そして何よりも彼らと僕たちの登山話に花が咲いた。
イタリア人はとても陽気で楽しい、そして本当の登山を楽しむスピリットに満ちていた。
今度は僕たちのテントで藤島さんの料理をご馳走するのだということで別れた。
暗い道、歩いてかえるとベトナム隊のテントから、奇声や笑い声が聞こえてきた
・・・・いまだにハイテンションを保っているらしい。
ここ、エベレストBCは世界から人が集まってくる。エベレストという山は世界中の人々にとって憧れであるとともに、どの国でもそう簡単に登りにこれる山ではない。
ここにくるだけでも相当な努力の末に来ている、そしてみんなが、エベレストに登るという共通の目的を持っている。 40隊、40の夢。みんな真剣に挑む姿は国境を越えた楽しさがある。
エベレストBCベーカリー