遠征日記 3月23日
<三浦雄一郎日記>
朝6時30分起床 7時30分出発。
心臓の調子もまだ無理はできないけど良好。大滝チームはモンジョに泊まるという。途中ずいぶん大勢のトレッカーに会う。そのなかでも、日本からの中高年の女性達が目立つ。ジョスラムでのんびりと2時間ほど昼飯をとって休む。 ゆっくりと出発。
ナムチェへ向かう最後の長い長い登り。 一度、10分ほど休んだだけで、好調に上り続ける。
ナムチェについたらすぐにエベレストベーカリーで、アップルパイやチョコレートケーキを楽しむ。
ネパールでただ唯一、本物だけを売っているインターナショナルマウンテンショップIMSで雄大が下着を、僕はジョルボのカテゴリー4のサングラス、膝のサポーターを買った。ノースフェースの帽子があったけど、これはネパール製らしい。今回ほど順調に、ナムチェに全員無事に着いたのは、過去数回で初めてであった。特に2003年は雄大がすごい下痢で僕は足に1kgをつけて、すっかりまいってしまった、また風邪をひいたりで、今までロクなことではなかった。
さくらロッジには、カナダの高校生グループが15人ほどいた。すこぶる元気で明るい賢い高校生達。毎年このような海外のエクスピディションをやっているらしい。今回はエベレストベースキャンプ、カラパタールなどのトレッキングをしてきたと言っている。引率のマイク先生が僕のエベレストの映画を見ていたので、高校生達も大喜びで記念写真を撮ったりした。
<三浦豪太日記>
今日はパクディンからナムチェまでの長い道のりだ。
標高差は800mほどある。
行動時間も今回の行程では長いほうなので朝7時半に出発した。
今日も天気がとてもよく、おかげで気分晴れやかにトレッキングができる。
歩くことが、うつ病に効くというのを聞いたことがある。
体を動かすことでホルモンのバランスが安定して気分が高揚するからだというが、僕はうつ病ではないが、これほど天気の中で気持ちよく歩くとどんな病気でも治ってしまうのではないかと思う。
もともと、昔、人間はかなり歩いていた。原始時代より狩猟のため獲物を追いかけたり、環境の変化でやむを得ず移動を余儀なくされた場合もあるだろう、最近(?)では江戸時代、坂本竜馬らが土佐から江戸まで歩いてきたというからびっくりだ。
ともかく、人間、かなり歩いても悪いことはないと思う。
このエベレスト街道は幸い歩くしか移動手段がない為、誰しも歩かざるを得ないのだ。
荷物も建材もイッサイガッサイ背中にしょったり、頭にくくりつけたり、ヤック(高所に適応した牛)やゾッキョ(ヤックと牛のあいのこ)に荷物をのせ、自分の3倍もあるような動物のおしりを引っぱたきながら歩く。
たまに、不良のゾッキョや荷物運びに疲れてふてくされたヤックがいる場合、お尻を引っぱたいている人が自らその荷物を運ぶことになる。実際その現場を見たことがあるが、ヤック使いはその重さを持っていても他のヤックの尻を引っぱたきながら山を登る。
いままでヒマラヤのトレッキングで、かなりすごい荷物運びの人を見たことがあるが、今日はその中でもびっくり人間に出会った。なんと120kgの建築木材を運ぶ人たちだ。
自分の身の丈3倍もあるような木材を頭にくくりつけて運ぶのだ。
木材は4m以上あるので、当然人の体から上にも下にも飛び出る。問題は下方に飛び出た部分で上りだったらまだいいが、下りは斜面に引っかかるので、かなりお辞儀をしなければいけない。120kgを背中にしょってのお辞儀だ。
僕は120kgを想像してみた・・・僕の兄は大きく、トレッキング前に体重を量ったら110キロあった。ということはさらに1リットルボトルを10本持った状態の兄を背負わなければいけないのだ。その想像は考えただけでも暑苦しかった。
そんなことを考えた途端、荷役の彼らを最大限の敬意を表して道を譲った。
途中、昼食時間を長めにとったので、ナムチェに着いたのは午後4時だった。
僕が大好きなエベレストベーカリーでアップルパイと紅茶を飲む。
ナムチェという町は不思議なところだ。標高3440mの山間に突然、坂に作られた町が現れる。
ここはチベットとネパールの交易が昔から行われていたところで、土曜日になると必ずバザールが行われ故、ここはナムチェバザールと呼ばれている。
登山の基点になる場所で昔から各国の登山隊がここで最後の準備を行う。
その為、山の中のそれぞれの建物は伝統的なシェルパつくりの建物だが、インターネットカフェや銀行があり、さらになかなか日本でも手に入らないようなグッズがそろっている鋭い登山用具店、そしてここのベーカリーのように本格的においしいレストランがある。
僕たちの泊まるロッジは「さくらロッジ」といい、僕らのサーダー(シェルパ頭)のラクパテンジンさんの宿だ。日本びいきのラクパがつけた素敵な名前のロッジで、料理もおいしい。
しかし、ここ最近、観光客の増加から、周りには一流ホテルのような宿が出現している。
僕はその為、昔ながらのさくらロッジのように味のある宿はなかなか太刀打ちできないのではないかと心配したが、今日、なんとここにシャワー室ができたのを発見した。
ナムチェの高度成長に遅れないようにラクパさんが企業努力をしたのであろう。
明日早速入ってみることにしよう。
材木を運ぶ
.