遠征日記 3月30日

<三浦豪太日記>
久しぶりに今日は、3500メートルまで高度を下げて、一日休むことができる。
昨日、ナムチェまで降りてきたおかげで、休養をとることができた。
父の調子はよく、昨日9時間以上も歩いたにもかかわらず、筋肉痛程度だ。

父はヒザの調子がいいとうので、ナムチェからルクラまで歩いて降りて、そこから飛行機で帰るという。当初の予定はチョモランマ本番へ向けて無理をせず、そして疲れをあまり残さないように、ナムチェのすぐ上のシャンボチェというところから直接ヘリコプターで帰るつもりだったが、今朝それをキャンセルすることにした。
ということで今日は一日フリーだ。
今日は実は重要なニュースがあるという情報だ。
それはネパール側のエベレスト登山条件が政府より出されるとのことだ。
今回、僕たちは中国側(チベット)からのアプローチを予定していたが、現在のチベットの状況を考えて、いろいろな選択肢を考慮しなくてはならない。
そのなかで、今回ネパールから出される条件というのは非常に重要情報だ。
とはいえ、果たして本当に今日すぐに出ると限らないので、夕方まで時間をつぶす。
朝食後、僕は最近はまってしまったお絵描きをするために、ナムチェの街を散策する。
その間、父達は、エベレスト博物館をまた見にいき、後で合流して僕らのシェルパのダヌルの家に行ってダヌル家代々に伝わる、本物の「ジーストーン」を見に行くことにした。
ジーストーンとは、ネパールやチベットでは家宝といわれている特別な石で、ラサの大昭寺にあるお釈迦様の首にもかけてある由緒あるものだ。
本物なら、時価500万とも1千万円ともいわれているものだが、何しろまがいものが多く、僕らには偽物と本物の差がほとんど判らない。
今日、ダヌルに本物といわれるジーストーンを直に触らせてもらったが、少し重いかなという以外、これまで見てきた偽者との違いが判らなかった。

お昼は、Pizza houseというナムチェのピザ屋さんでピザを食べた。
クラストがしっかり作ってあり、チーズも濃厚で、とても満足な出来だ。

夕方、ナムチェのインターネット・カフェで今日出る予定のネパール側からのエベレスト登攀条件をチェックしてみる。
まだ、正式な公布は政府から出ていなかったが、エベレストの関連サイトに2日前にでた仮の条件があった。まだ正式なものではないが仮に検討されているのが大まかに下記の内容だ;

4月1日~5月10日までの基本案

・ ノーマルルートのみ許可(バリエーションルートは認めない)
・ 記録映像の禁止
・ 5月10日までC3以上まで登れない
・ サウスコルから頂上の登山工作は5月10日以降
・ C2~C3の登山時間は朝6時から夕方の6時までと指定する(ただし救助活動は除く)
・ リエゾンオフィサーがC2,C3に常駐し全ての登山活動の監視をおこなう
・ 午後6時以降の山での活動は一切禁じる(ただし救助活動は除く)
・ すべての通信(気象情報を含む)はリエゾンオフィサーの監視下のもとおこなう
・ 無線はネパール政府より指定された周波数を使う
・ ビデオやカメラ撮影(個人)は、5月10日まで禁止する
・ 近隣諸国に配慮した行動を行う
・ ゴラクシェプのチェックポイントを必ず通り、申告する
・ メディアやプレスは必ず政府より事前許可を取ること。(BC以上の入山は禁止)

・・・といった内容だ。その他にも細かいことが諸々と書かれていた。
この内容を見ると中国側から上る聖火隊に配慮した内容であることが判る。
しかし、厳しい制限と時間的制約があっても、このような条件がはっきりとしていれば、そのなかでベストをつくして登山活動はできる。
問題はチベット側での登山活動について、許可そのものを含めて具体的な条件が未だ何も提示されていないということだ。いったい全体、僕たちの隊はいつチベットに入れるだろう・・・。
厳しいとはいえ、条件が設定されているほうがまだ計画は立てやすい。
ただ、ぼくが気の毒に思うのは、このネパール側のルールを施行するためにC2とC3に常駐しなければいけないリエゾンオフィサー達だ。

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